株式会社テクサー(本社:東京都、代表取締役社長:朱強、以下 弊社)は、SDGs(*1)を見据えた社会貢献活動の一環として、弊社が販売しているIoT(*2)向きのデータ通信システムLPWAN(*3)であるZETA(*4)対応のセンサノードを提供し、「交通インフラ構造物遠隔診断用データ通信システム」の現場検証実験に協力して参りました。
この現場検証実験は、一般財団法人 関西情報センター(本部:大阪市、会長(代表理事):森下俊三、以下 KIIS)の主催する「スマートインフラセンサ利用研究会」(座長:大阪大学大学院教授 矢吹信喜)が、その活動の一つとして実施した、一般財団法人 日本建設情報総合センター(本部:東京都、理事長:深澤淳志、以下JACIC)の研究助成事業「構造物診断のためのIoT最先端通信技術(LPWA)導入に向けた調査研究」(研究者:小泉圭吾(大阪大学大学院)、共同研究者:福田芳雄(地球観測(株))および澤田雅彦(関西情報センター)、実施期間:2017年9月から2018年11月)の一部です(*5)。この調査研究の成果は、2018年11月15日にJACICで報告されました(*6)(*7)。
検証実験では4種類の方式のLPWANに対してそれぞれの特徴に基づいて有用性の評価が行われ、多くの知見が得られるとともにいずれも良好な試験結果となりました。
この研究成果報告の内容を弊社が総合的に分析した結果、弊社ではZETAは商用電源や携帯電話の電波の利用が困難な場所や、複雑な地形を持ち遮蔽物の多い山間部等に設置された構造物の診断を、高い信頼性を保ちつつ経済的に行えるデータ通信システムであると考えています。
高速道路や新幹線などの交通インフラは、1964年に開催された東京オリンピックを契機として高度経済成長期に整備されました。この時期に建設された橋梁やトンネルなどのインフラ構造物は建設後50年以上が経過して老朽化が進展し、大きな社会問題になっています。これらの構造物の長寿命化や予防保全等による老朽化対策と健全度診断は、現在喫緊の課題となっており、国の重要な施策として取り組まれています(*8)(*9)。
総務省の「道路統計年報 2017年」(*10)によれば、平成28年4月1日現在の我が国の高速自動車道の総延長は約9千3百km、一般道路の総延長は約120万kmにおよんでいます。また、橋梁の数は高速自動車道および一般道路を合わせて17万本におよび、トンネルの数は高速自動車道および一般道路を合わせて約1万本におよびます。現在の検査は主に目視での確認と打検時の音響の聴き取りによって行われおり、道路網の検査には膨大な時間と工数が必要となります。しかも、橋脚やトンネルの検査箇所が高所にある場合も多く、検査を行うための足場などを設置する必要もあり、費用も膨大になります。
これらの交通インフラの中で地方自治体等が管理するエリアは非常に広く、橋梁、トンネル、道路等の構造物が広範囲にわたって多数存在するため、健全度診断を行う技術者の不足、予算の不足等もあいまって、構造物の健全度診断が困難な状態になっています(*11)。
構造物の点検や予防保全の効率化を行うためには、各種センサを用いて診断に必要な基礎データを常時収集し、データ通信システムを用いてサーバに転送し、分析を行う必要があります。しかし、点検対象となる構造物のほとんどは商用電源が利用出来ない野外にあり、通信に必要な消費電力が大きい従来のデータ通信システム(WiFi、Bluetooth、ZigBeeなど)をバッテリーで長期間(数年)にわたって運用することはほとんど不可能です。
これに対し、IoT向きのデータ通信システムとして注目されているLPWANは、一度に送信できるデータ量は少ないものの低消費電力で広域(数km)での通信が可能です。そのため、センサノードを長期間にわたってバッテリーで間欠的に駆動することが可能であり、構造物の点検・保全のためのデータ収集に適しています。
今回の評価実験では、IoT向きのデータ通信システムであるLPWANとして、弊社が国内での総代理店として販売しているZETAのほか、Sigfox、通信事業者が運営しているLoRaWAN、および自営での運営が可能なLoRaWANの計4種類のシステムを評価対象として実験が行われました。
次に、評価項目としては、これらのLPWANを実際の構造物の遠隔診断に用いる場合を想定して、次の2項目が選択されました。
(1)の通信可能距離が短い場合、通信インフラを構成する基地局の台数が増えることになり、設備の初期コストおよび運用コストが増加することになります。
また、(2)のデータ受信率は通信インフラの信頼性と密接に関係しており、データ受信率が低い場合には正確な診断に必要な重要データを取得できない可能性が増えてしまうので、信頼性が低下します。
現場検証実験の対象として選ばれた構造物は東大阪市内の春宮跨道橋(大阪中央環状線)です。現場検証実験の課題はこの橋梁に設置された亀裂変位計(*12)の出力をディジタル化し、LPWANを用いてクラウド上のサーバに送信することです。上記のLPWANを提供した各社が評価実験のためのセンサノードを作成して現場検証実験が実施されました。
図1に実験が行われた場所の地図と亀裂変位計、センサノード、基地局の位置関係を示します。図2に亀裂変位計およびセンサノードの設置方法を示します。図3にZETAの基地局の設置状況を示します。図4に今回の現場検証実験に用いられたZETA対応のセンサノード(試作品)を示します。センサノードは数年間の連続使用を想定して、大容量の電池を筐体の内部に実装しています。
ZETAを含む自営系のLPWANの通信可能距離の評価実験では、亀裂変位を測定するセンサノードが設置された交差点を中心として、メインの道路沿いに電波強度を測定するためのセンサノードを手に持って移動し、交差点からの距離と通信状態が調査されました。通信事業者によるLoRaWANの基地局およびSigfoxの基地局はこの交差点から離れた場所にあるので、通信可能範囲はこれらの基地局とセンサノードの間の通信状態で評価が行われています。
またデータ受信率は、それぞれのLPWANでセンサノードが発信したデータ数に対してサーバが正常に受信出来たデータ数の割合によって評価が行われました。
この研究の成果は、2018年11月15日にJACICで報告が行われました。弊社は、助成研究の報告書および発表会でのプレゼン資料を分析した結果から、今回の評価実験で用いられた4種類のLPWANの中で、ZETAは通信可能距離、データ受信率の両方の評価項目において非常に高い有用性を確認できたと考えています。
まず、通信可能距離の評価実験では、ZETA基地局のアンテナの高さが地上から約1.5mと低いため、基地局からの直接通信可能な距離は約1.5kmに過ぎませんでした。しかし、交差点から約1km程度離れた場所で地上から約5mの高さに中継器を設置して測定した結果、通信可能距離を3kmに延伸することができました。
ZETAでは複数の中継器を用いて4ホップまでのマルチホップ通信が可能なので中継器を更に増やすことも可能であり、今回の評価環境であれば、交差点の中心から半径7km程度の範囲がカバーできると期待されます。このように、中継器を用いて通信可能範囲(カバレジ)を広げられるのはZETAの最大の特徴の一つです。中継器は電池で数年間の駆動が可能であり、安価(基地局の10分の1以下)なので、ネットワーク設置に必要な初期コストも運用コスト(基地局の通信費用)も低減可能です。
次に、データ受信率に関しては、ZETAの場合には100%であり通信が安定していました。また、パケットロスもほぼ0でした。すなわちパケットロスに伴う再送がほとんど起きなかったので通信効率も良好であり、無駄な消費電力もほとんど無かったことになります。
以上の実証実験の結果を総合的に分析すると、ZETAは商用電源や携帯電話の電波の利用が困難な場所や、複雑な地形を持ち遮蔽物の多い山間部等に設置された構造物の診断を、高い信頼性を保ちつつ経済的に行えるデータ通信システムであると考えられます。
現時点では、JACICで行われた報告会のプレゼン資料(*7)のみが公開されていますが、報告書の全文も近日中に公開されることになっていますので、KIISでの評価の詳細は報告書をご覧下さい。
橋梁などの構造物は、山間部など検査員の目視や打音での検査が困難な場所や商用電源の利用が困難な場所にも多く存在します。このような場所では、従来のデータ通信システムは利用が困難であり、IoT向けのデータ通信システムであるLPWANが威力を発揮します。
現在、複数のLPWANの規格が提案されていますが、ZETAはバッテリーで長期間運用可能な中継器を用いて通信可能範囲を延伸できるという大きな特長を持っており、交通インフラの構造物などの遠隔診断には非常に有利です。データ受信率の評価では、パケットロスがほとんど無かったことから、パケットの再送などによる通信効率の低下もほとんど起きていません。ただし、このような技術的な優位さがそのまま技術の普及に直結するわけではないので、テクサーはZETAを出来るだけ多くの利用者に役立てていただけるようにZETAアライアンス(*13)を結成しました。
ZETAアライアンスは、ZETAの活用推進と普及促進を図るために、テクサーが凸版印刷株式会社(本社:東京都)、株式会社QTnet(本社:福岡市)、アイティアクセス株式会社(本社:横浜市)と共に2018年6月に設立した協業組織(エコシステム)です。ZETAアライアンスの現時点でのキーメンバー(プロモータ)は、上記の4社の他に株式会社 エネルギア・コミュニケーションズ、アイテック阪急阪神 株式会社、マクセル 株式会社、株式会社 ティーアンドエス、ZiFiSense社を含めた9社です。ZETAアライアンスは、ZETAを用いたIoTシステムを様々な社会課題に対して適用を進めることにより、Society5.0で提唱されている超スマート社会の実現に貢献することを目指しています。
テクサーは今後も、SDGsに掲げられた課題を解決するために自社が保有するIoT技術を駆使して貢献して行きたいと考えております。今回の交通インフラの老朽化対策への協力もその取組みの一環です。
株式会社 テクサー
https://techsor.co.jp/
ZiFiSense 社
http://www.zifisense.co.uk/
一般財団法人 関西情報センター
http://www.kiis.or.jp/
一般財団法人 日本建設情報総合センター
http://www.jacic.or.jp/
(*1) 外務省ホームページ 「SDGsとは」より:
持続可能な開発目標(SDGs)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています。SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
(*2) IoT(Internet of Things)は、センサ、アクチュエータ、マイクロコントローラ、インターネット通信インタフェースを備えた組込みシステムの総称です。IoTは各種のデータを取得するセンサネットワークのセンサノードとして使われる場合が多く、そのような場合には電池での長期間の駆動が求められます。
(*3) LPWANは、低消費電力広域無線通信ネットワーク(Low Power Wide Area Network)の略語です。LPWAとも呼ばれます。
(*4) ZETAは、2013年に英国ケンブリッジで創業されたベンチャー企業であるZiFiSense社によって開発されたIoT向きの無線データ通信の新しい規格です。ZETAの特長は、(1)低消費電力で双方向通信が行えること、(2)中継器を用いてメッシュ状のアドホック無線通信ネットワークを構築できること、(3)マルチホップ通信(最大4ホップ)が行えること、(4)中継器は小型軽量で電池駆動が可能であり設置場所の選択範囲が広いことなどです。これらの特長から、ZETAは高層ビルが林立する大都市中心部、商用電源や携帯電話の電波の利用が困難な場所、島しょ部傾斜地や山間部など複雑な地形を持ち遮蔽物の多い場所でも利用可能なIoT向けの無線通信インフラです。
(*5) 「スマートインフラセンサ利用研究会」のワーキンググループWG3(テーマ「新センサ技術・AIを活用した維持管理システム」)は、老朽化する橋梁等の社会インフラの長寿命化と予防保全を目的としたセンサやセンサデータ活用基盤を作る活動を行っています。
(*6) KIISスマートインフラセンサ利用研究会著、JACIC研究助成事業「構造物診断のためのIoT最先端通信技術(LPWA)導入に向けた調査研究」報告書
(*7) JACICでの報告会のプレゼン資料
http://www.jacic.or.jp/josei/h30/H30PPT19_2017-05.pdf
(*8) 国土交通省ホームページ「社会インフラの維持管理の現状と課題」
http://www.mlit.go.jp/common/001016260.pdf
(*9) 国土交通省ホームページ「道路の老朽化対策」
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/torikumi.pdf
(*10) 総務省ホームページ「道路統計年報2017年」
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-data/tokei-nen/index.html
(*11) 澤田雅彦「スマートインフラセンサ利用研究会~橋梁等の社会インフラ維持管理IoT活用推進の情報基盤づくり~」、関西情報センター機関誌Vol.157(2018.7) p.18-24
http://www.kiis.or.jp/content/info/kiis_pdf/kiis157.pdf
(*12) 亀裂変位計は、コンクリートなどで作られた構造物に発生した亀裂(クラック)や継目の間隔などの大きさを計測するためのセンサデバイスです。今回の評価実験では、東京測器研究所の亀裂変位計KG-2A(計測範囲±2mm)が用いられました。
http://www.tml.jp/product/transducers/civil_eng/crack/kg-a.html
(*13) ZETAアライアンスは、ZETAの活用推進と普及促進を図るために、弊社が凸版印刷株式会社(本社:東京都)、株式会社QTnet(本社:福岡市)、アイティアクセス株式会社(本社:横浜市)と共に2018年6月に設立した協業組織(エコシステム)です。ZETAアライアンスは、ZETAを用いたIoTシステムを様々な社会課題に対して適用を進めることにより、Society5.0で提唱されている超スマート社会の実現に貢献することを目指しています。
https://zeta-alliance.org/